キミのとなり。
レストランで向かい合い、食事をしていると弘人が話しを切り出した。



「どう?お隣りさんとは……。」


「え?」



「この前言ってたじゃん、隣りに若い男が住んでるって。」



何故か笑顔でそう聞いてくる。



「あぁ……えっ?どうって何が?」



「うまくいってる?ご近所付き合いは。」



「付き合いなんて別にないよ、あいさつぐらいで。」


「そっかー、どんな人?」


テーブルに身を乗り出してやけに興味を示す。



「どっ…どんなって、別に普通……」



この時、私の頭にちょっと意地悪な考えが浮かんできた。



“やきもちを妬かせたい”



「あっあのね、隣りバンドマンなんだよ!結構人気があるバンドでぇ。」



「へぇ~!」


あれ……予想外の反応。



「こっこの前、ライブハウスに見に行ったらその人が歌っててさぁ、結構うまかった。」



「そうなんだ。」



私はチラっと弘人の顔を伺った。


妬いて……る?



「じゃー俺も今度そのライブ連れてってよ!」



えっ……



「あっ……うっうん。」



弘人は動揺すらしない。


私と違って大人なのか、それとも……



ただ自分が虚しくなっただけだった。


マンションに着くまで、弘人は何も話そうとしなかった。


「じゃあ、また明日。」



それだけ言って私に背を向ける。



待ってよ……。


今日はキスもしてくれないの?



「ひっ…弘人!」



思わず呼び止めていた。


「ん?」



体を斜めにして振り返る。


信じてるよ……。



弘人は私を初めてちゃんと理解してくれた人だから。


信じてる。


そう言いたかったけど、言葉が詰まって出てこなかった。




「ん……なに?」



「きっ…気をつけてね。」


軽く手を振り、弘人は去って行った。

< 38 / 554 >

この作品をシェア

pagetop