キミのとなり。
「千秋……って呼んでいい?」



「えっ…」



イタッ!



桜井君は痛いほど強く私の手を握っている。



まるで、私が今何を考えていたのか全てわかっているかのように。



「いいやろ?彼氏やねんし…」



“彼氏…”



その言葉に私の中の何かがビクッと反応した。



桜井君は真剣な眼差しで返事を待っている。



「……あ、うん。」



私がそう頷いた途端、桜井君の強張った顔が緩んだ。


「んじゃー次は千秋の服見よっか!」



そう言って私を引っ張り歩き出した。



なんだろう……



桜井君に“千秋”って呼ばれると複雑な気持ちになる。



きっとまだ、私の中の何かが彼の存在を受け入れてないんだ。



レディースショップに着くと、まったく躊躇する様子もなく堂々と桜井君は中へ入る。



そしてそこにあった白のワンピースに手を伸ばす。



「千秋これ似合いそうやん!」



「えっ本当?」



手に取りよく見てみると胸の辺りにこれでもかとフリルが施されている。



うっ…私には正直きつくない?



「可愛いやん!これにデニム合わせたら最高やで!」



私の心配をよそに桜井君は一人盛り上がる。



でも、そんな彼を見ていたらなんだか心から楽しんでくれているのが伝わってきてこっちまでワクワクしてきた。



「じゃー買っちゃおうかな…」



「うん!あってか、俺プレゼントするわ!」



「えっ」



私の手からワンピースを奪いレジに向かう。



「やっ!いいよ!そんなっ…」



「いいから、いいから。俺ボーナス入ったとこやし!」


「でもっ…」



慌てて桜井君の腕を引っ張ると振り返りながら彼は小さくこう言った。



「あげたいねん、……なんでもいいからプレゼントしたいねん。」



一瞬立ち止まった。



「恋人やっていう……感覚が欲しい。」



その言葉に手を離した。





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