キミのとなり。
お洒落なダイニングバーに着き、桜井君は器用に車庫入れを済ませた。



「はぁー腹減った!千秋は?」



「うん…ぼちぼち。」



「じゃ、入ろっか。」



また桜井君は自然に私の手を引いて歩く。



その後、職場の話しで盛り上がり楽しい夕食の時間は過ぎた。



時刻は午後10時――



二人で車に乗り込む。




「……ふぅ。」



一瞬何か考え込んだ様子を見せた後、一息ついてからエンジンをかけた。



「送るわ!」



「……うん。」



桜井君は意外と不器用だ。


口ではそう言いながらも、“まだ帰したくない”と体全体で叫んでいる。



そんな彼の本音に気付いていながらも、何も言えない自分が悔しくて歯痒くて……。



思わず窓の外に目をやった。



街の明かりに彩られた夜の道を、車はただ無言で走り去った。


数十分後――



車はマンションの下に着いた。



「あっ今日はありがとう、楽しかった!」



シートベルトを外しながらそう言った。



「俺も楽しかった。」



目が合い、何故か笑顔で沈黙……



「……。」



私は黙ったまま笑顔で2.3度頷いた。



「……じゃーまた明日ね。」



そう言ってドアに手をかけた時――



「っなぁ!」



桜井君は咄嗟に私を呼び止めた。



「えっ?」



「上がっても……いい?」


桜井君は少し恐る恐るといった感じで私にそう聞いた。



「…えっうち?」



「どんな部屋に住んでんのかなぁーっとか思って。」


「あぁー…」



答えに困って俯く。



「あかん…やんなっ。いきなり図々しいよな!ゴメン忘れて!」



慌てて頭をぐちゃぐちゃと掻いた。



うぅ…



まただ。



どうやら私は彼の押して押して引く作戦に弱いらしい。


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