キミのとなり。
「……少しだよ。」



ボソッと小さく投げ掛けた。



「えっ…!?いいの?」



「本当にっ…少しだけだよ!?」



「うん!わかった!!ちょっと見たらすぐ帰るし。」


横で嬉しそうに目を輝かせる桜井君。



ハァ~完全に彼の思うままに操られてるな私…。



またまた器用に駐車を済ませた桜井君がニコニコ笑顔で私の後についてくる。



まるで飼い主から餌をもらえるのを待ってる犬のようだ。



“ガチャッ”



鍵を開けて桜井君を招き入れた。



「どうぞ。」



「おっじゃましまぁす!」


あぁーこんなことならちゃんと片付けて出ればよかった…。



「へぇーめっちゃお洒落な部屋やん!意外と片付いてるし…。」



い…意外ってっ!!



キョロキョロしている桜井君に気付かれないように、床に脱ぎ捨ててあったジャージを足でベッド下に隠した。



「まっまぁー座って!お茶入れるね!」



ソワソワとキッチンへ移りやかんを火にかける。



桜井君はまだあちらこちらを見渡して座ろうとしない。


「あんまり見ないでよ。」


「ほーい。」



また嬉しそうにはにかむと、やっとそこにあるソファーに腰を降ろした。


“ボーッ…”



静かな部屋にガスコンロの音だけが響く。



なんか緊張してきた…。



「あっなんか、テレビでもつけよっか!」



慌ててソファーの前にあるテーブルの上のリモコンに手を伸ばしテレビを付けた。



“パチッ”



桜井君が私を目で追っているのがわかって、私の緊張は最高潮に達した。



「あっお湯!…沸いたかなぁ~。」



明らかに不自然に部屋を歩き回る。



キッチンに戻るとやかんのお湯がフツフツと沸騰し始めていた。



桜井君はソファーの上であぐらをかいで、テレビを見ている。



ちらちらっと彼を気にしながらカップにコーヒーを入れた。



「はい。」



私は彼の前にカップをひとつ置くと、無意識に床に座り込んだ。



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