キミのとなり。
『キャーッ!!』



耳を塞ぎたくなる程の悲鳴のような歓声が会場から沸き起こった。



そして次の瞬間、後ろの幕が開きスポットライトが当てられた中に―…




仁は立っていた。



心臓が止まるぐらいの衝撃を受けて、ただライトに照らされ眩しそうにマイクを握る仁の姿を見ていた。



―♪~…



会場に曲が流れ始める―…



この曲は……



そう、昔仁が私の為にと作ってくれた曲だった。



俯いていた仁が顔を上げマイクを握り歌い出す。



♪♪~



懐かしいドキドキ感…



あの時の仁と今後ろで唄っている仁がだぶって見えた。



何も変わらない…



優しい歌声も、



切なそうに唄うくせも、



マイクスタンドを握る逞しい手も―…



何も変わらないのに、



今の私の隣に仁はいない。


忘れようとすればする程浮かんできて……



私の小さな胸を締め付ける。



ねぇ、なんで?



なんで来たの?



“今度友達が結婚するんだけどね、お嫁さんがマイクロシティの大ファンらしいのよね~”




“出ないぞ、俺。んな面倒臭せぇ事やってられっか!俺は忙しい身なんだよ!”



あの時…そう言ったのに。


なんで覚えてたの?



私の頼んだ事なんて



忘れていいのに…



じわっと言葉に出来ないような感覚が胸を襲う。



嬉しいとか、悲しいとか…


そんな簡単な言葉では説明できないような……



そんな感覚だった。

< 396 / 554 >

この作品をシェア

pagetop