キミのとなり。
『“幸福の扉”という曲で、辛い過去と決別できない彼女に……俺が送った曲です。迷ったんだけど、俺が1番好きな曲を送る事にしました。』




『俺は、その人が好きでした。けど、別々の道を選んだ。……それが、悩んだ揚句出した、互いが傷つかないで済むはずの答えでした。』



静まり返る会場に、仁の声だけが響いている。



『でも……、結局自分を一番苦しめる選択だった。』



えっ…



『もちろん、彼女は今新しい道を見つけて幸せにしています。……でも、俺は』


ドキドキドキドキ…


心臓が飛び出しそうになって思わず胸を押さえた。



『俺は、何一つ変わっていません…』



《ザワザワザワ…》



《何!?どいうこと?》



《仁って彼女いんの!?》


《別れたんじゃない?》



会場は口々に戸惑いの声を上げる。



若菜ちゃんはかける言葉をなくし、ただ私を見ていた。



『だけど、いつまでも立ち止まってはいられないから……その人に届いてるかは、わからないけど……これが今の俺にできるプロとしての最後の恩返しです。』



最後の―…恩返し。




『今もし、そいつに会えたら……』



その頃にはもう、涙でいっぱいで仁の顔が見えなかった。


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