キミのとなり。
『ただ、ありがとうと言いたい。』



・・・仁。



『俺の前に現れてくれて……、俺を好きになってくれて……、俺の夢を……いつも隣で応援していてくれて……。』




仁は、ここに私がいるのを知ってか知らずか、ただ真っ直ぐ一点を見つめたままそう言った。



ポタポタッと買ったばかりのワンピースに涙が落ちる。


仁の本音をやっと聞けた気がしたんだ。



『そして、最後にひとつ……』



俯いていた会場が、一斉に後ろに注目した。



『ここにいる全ての人へ伝えたい事があります。』




会場に通る、力強い仁の声―…



誰もが真剣に仁の言葉に耳を傾けた。



『隣に、好きな人がいてくれる奇跡を大事にしてください。』




“キーン…”



その言葉に会場は言葉を失う。



『当たり前なようで当たり前じゃないんだ。』



『そうしたくても、できない人もたくさんいます。好きな人が隣にいてくれる―…、それは本当に幸せな事なんです。人間は残念ながら今ある環境に慣れる生き物で、そんな事さえいつの間にかわからなくなる時があります。』




『けど、そこに自分の選んだ人が居てくれる事はとても幸せな事なんだって……忘れないでください。』



『そして、その人にいっぱい愛を伝えて下さい。』



『後悔しないように…。』


そう言って仁がマイクスタンドから手を離した。


ある女性は泣いていた。



またある女性は、うっすら頬に流れる涙をハンカチで拭っていた。



『長くなってすいませんでした。……末永く、お幸せに。』



静まり返ったままの会場に向かって、仁は深々と頭を下げた。



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