キミのとなり。
えっ…



驚いて振り返ると、そのまま正面から抱きしめられた。



余りの力強さに、私の体は硬直していた。



「…さっ」



「こうしてたい。」



「…え?」



桜井君の腕に更に力が入る。



「こうしてないと、どっか行ってしまいそうや。」



桜井君…



桜井君の力強い言葉が、耳の後ろから伝わる熱が体いっぱいに広がった。



「さっき、裏の出口からジンが出てくるの見たで。」


えっ……



「会ったんやろ?」



脳裏に蘇る仁の背中…



何も語ってくれなかった、冷たい目…



思い出したら、また泣けて来た。



「桜井君、私…」



「夢見てたやろ…」



「え…」



「さっき、寝言で“ジン”って…」



嘘っ…



桜井君は、それでも私の体を離そうとしなかった。


「消せるとは思ってへん。」



「えっ…」



「思ってへんし、消せんでいいと思ってる。」



桜井君は私の体をゆっくり離した。



「仁が90で、俺が残りの10やとしても、先輩が俺を選んで横に居てくれるならそれでいいと思ってる。」



桜井君…。



いつもいつも熱い真っすぐな思いをぶつけてくれる。


「だから、行かんといて欲しい……」



桜井君の精一杯の気持ちだった。



男のプライドを捨ててでも、私を離したくないと言ってくれたんだ。



なんでだろう。



彼の想いを知れば知るほど、私の胸は何かに押し潰されそうになるよ。



「じゃーまた。」



「……うん。」



小さく手を振った。



去っていく車をずっと見送ていた。



まだ耳に残る桜井君の言葉と体温……。



私は何をやってるんだろう。

< 409 / 554 >

この作品をシェア

pagetop