キミのとなり。
「…あった?」



「え?」



背を向けたままの桜井君がボソッ呟いた。



「一度でも、俺を一人の男としてちゃんと好きになろうって思った事あった?」



桜井君……



「あったよ、たくさん。たくさんあった。」



そう……



私は毎日、桜井君にちゃんとドキドキして、胸をときめかせていた。



彼が私の手を握ると、胸がきゅんとなったし、



ちゃんと一人の男性として好きになろうとしたんだよ。



だけど、思った以上に私の中の仁の記憶は色褪せなくて……



逆に、どんどん鮮明に蘇ってくるんだ。



仁との思い出より桜井君との思い出が増えて行くのが恐くて……



わざと目を伏せそうになった。



「先輩……」



いつの間にか千秋と呼ばなくなっていたのも、何か感ずいていたからなのかな。


「……ん?」



「こんなん言うの、かっこ悪いけど……俺は、別にいいと思ってる。例え俺とキスしてる時に先輩が仁の事考えてても、抱き合いながら俺と仁を重ね合わせてても……」



「桜井君…。」



彼は突然こちらを振り返り私の手を握った。



「……抜け殻の先輩でも、横にいてくれるんやったらそれでもいいねん。」



目を反らさずとても強い声でそう言う。



そんな…



そんな事できないよ。



「言葉に表すと、そんな極端な言葉にしかできひん。」



「そんぐらいマジで惚れてるから。」



こんなに……



こんなに誰かに必要とされたのは生まれて初めてだ。



だけどね、そんな今も頭では、



これが仁だったらいいのにって思ってる自分がいるんだよ。



最低なんだ、私。



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