キミのとなり。
「……わかった。」



桜井君がボソッと言った。


「けど、最後にお願いがあるねん。」



「……え?」



「先輩、俺の下の名前知ってる?」



……桜井君の下の名前。



考えてみると、いつも苗字で呼んでいたから名前なんて聞いたことがない。



「ふふっ…彼氏やのに名前も知らんって有り得へんやろ。」



「あっ……ごめんっ…」



聞いた事すらなかった。



正直、気にも止めなかった。



本当、私最悪だっ。



ベッドに腰掛け少し俯きながら桜井君が言った。



「……ジンっていうねん。」



えっ―…!



ゆっくり振り返る寂しそうな笑顔。



「……うそっ。」



「嘘ちゃうで?ほんまに…」



桜井……ジン。



「だから、先輩が寝言でジンって呼んだ時、一瞬自分の事呼ばれたみたいに思って……」



信じられない展開に思わず口を塞いだ。



「でも、実際は仁の事で……、わかってたけど、めっちゃ切なくて泣きそうやった。」



鼻下を擦りながら、あえて明るく話してくれる。



私を傷つけないように……



だよね、きっと。



「だから、最後に呼んでほしいねん。」



「…え」



「仁じゃなくて、俺を。俺を思って……呼んで欲しいねん。」



桜井君……



そんな優しく笑いかけないで……



私にそんな資格ないよ。



散々振り回して



傷つけたのに……



今更呼べないよ。



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