キミのとなり。
「……ジン。」
「……。 ん?」
桜井君は低いトーンでそれに答えた。
今は、今だけは、
私の頭の中から仁を消して名前を呼んだ。
それが私にできる、
精一杯の罪滅ぼし―…
だから。
「……ありがとう。」
桜井君の……
優しい笑顔が震えてる…
「……ジンに、たくさんもらったよ?」
どんどん強張り始める笑顔。
「…優しさとか、人を思いやる心とか。」
そして、涙が落ちるのと同じタイミングで、
桜井君は俯いた。
「…ジンに出会えてよかった。」
この時だけは、彼が小さく見えた。
いつも、必死に背伸びをしていてくれたのかな。
私の為に……。
だけど、今私の目の前で肩を揺らし泣いているのは、紛れも無い21才の男の子の姿だった。
しばらくして、桜井君が顔を上げた。
泣き疲れた顔を見るのが辛かった。
「よしっ!!」
またバッと立ち上がり、膝の辺りをバシッと叩く。
「お試し期間終了!!」
え――…
「やっぱ、先輩は俺には荷が重いわ!!」
桜井君…
「やっぱ、先輩を幸せにできんのはあいつだけや。……悔しいけど、……諦めるわ!」
「頑張ってな、先輩。」
精一杯明るく装ってくれてるのがわかった。
「ほんじゃー行くわ。」
笑顔のまま背を向けた。
「嬉しかったで、ジンって呼んでくれて。」
そう言って、玄関に向かいゆっくり出て行った。
寂しそうな桜井君の背中…
目に焼き付いた残像が何度も何度も蘇った。