キミのとなり。
私はそこにいるのが怖くなった。


だけど足が動かない。


「よくやるよなぁ!社内で浮気とは。俺ならようできん!」


「ほんっとバレねぇかヒヤヒヤだよ!水原やたら千秋の前で声かけてくるし。」


“ガチャンッ”


私はタイミング悪く足元の消火器につまずいた。


その音に驚いて振り返る弘人と男性社員。


そして、私に気付いた弘人は青ざめた顔でゆっくり立ち上がった。


「ちっ千秋……。」


ズキズキする心臓を必死に押さえた。


「やっ今のは……。」


焦って必死で弁解しようとする弘人を見たら、本当になにもかもが嘘だったんだと実感した。


涙が頬を伝い落ちてゆく。


私は走ってその場から逃げ出した。


ずっと騙されてたんだ……


弘人の優しい笑顔に。


本気で「この人なら」って思ったのに。


本気で…


愛してたのに……。


デスクに戻るわけにもいかず、そのままトイレへ駆け込んだ。


鏡に映るぐしゃぐしゃの顔。


なんて顔してるんだろう……。


誰かに裏切られると、人間はこうもボロボロになっちゃうものなのかな。


“ガチャンッ”


その時、背後から誰かが出てきた。


私は慌てて涙を拭いた。


「……あっ。」


その人は何かに気付いた様子だった。



恐る恐る鏡に映るその人を見ると、水原紗枝……



彼女だった。



最悪のタイミング。



彼女は焦る様子もなく、私の横に立って手を洗い出した。



「……いつから?」


私の口は無意識に話しかける。


自分でもびっくりした。


「えっ?」



驚いた様子の彼女は鏡越しに私を見る。


「弘人と……いつから?」


私の質問の意味がわかったようで、彼女は私に向かって開き直ったかのように話し出した。


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