キミのとなり。
ベンチに腰掛ける私に、ケンチャンは缶コーヒーを差し出す。



正直それを受け取る気力もなかった。



「………。」



ケンチャンは小さく溜息をついて、ゆっくり私の横に腰掛けた。



「……先生の話しだと、意識が戻るまでしばらくかかるかもしれないって。」



「………。」



“カチャッ”




そう言って手に持った缶コーヒーを一気に飲み干した。




「すごい酷な事言うよ?」


「…え?」



ケンチャンの真剣な眼差し……



何…?



怖くて…怖くて…



逃げ出したかった。




「意識が戻っても……“言語障害”が残るかもしれないって言われたんだ。」



えっ―…



言語障害―…?



「もしそうなったらあいつ……」



ケンチャンは視線を正面に向けた。



「仁はもう……唄えなくなる。」



え…



仁が……


唄えなく……なる?




震える両手で顔を覆った。



「……うっ……うぅっっ…」



鳴咽を漏らして泣いた。




ヤダっ、神様…



お願いします。



仁か唄うことを奪わないでください。



これ以上もう仁を苦しめないでっ…



「千秋ちゃん…」



ケンチャンの温かい手が優しく背中を摩ってくれていた。



“カツカツカツ…”



近づいてくるヒールの音…



啜り泣く私の前で、その足音は止まった。




「…佐田さんっ。」



隣のケンチャンが立ち上がりそう言った。



ゆっくり顔を上げる。




涙の向こうで佐田さんは、見たことがない形相をして私を見下ろしていた。



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