キミのとなり。
「……でも。」



みんなが応援してくれているのに、私の折れた心は思うようには前を向いてくれない。



意気地無しの自分に腹が立って仕方ないよ。




“ガシッ!!”



え?



いきなり桜井君が、黙ったまま私の腕を強く掴んだ。



「行くで!」



「…わっ」



桜井君に引っ張られて走り出した。



若菜ちゃんもただただ驚いて私達を見送っていた。




早足の桜井君の背中の後ろでただ、驚いて声も出なかった。



桜井君…



どうしていつも



そんなに一生懸命になってくれるの……



こんな私なんかの為に。



桜井君は会社を出た所でタクシーを拾い、そのまま無言で私を連れて乗り込んだ。


「どこの病院?」



「えっ…」



とても真剣な眼差しで私にそう聞いた。



「○○……病院。」



「○○病院まで。」



桜井君が運転士にそう告げるとタクシーは走り出した。



私の横で何も語らない桜井君の横顔……


ごめんね…


心配ばかりかけて。



タクシーの中で、震える私の手を彼はずっと強く握っていてくれた。



その手が《大丈夫や!》って言ってくれてるみたいで、だんだん折れた気持ちが前を向き出した。



そうだよね、会わせてもらえないかもしれない…



だけど、それでも構わない。


何もしないでいるより少しでも仁の近くに居られるなら……




「あっ…ちょっと止めてください。」



すると、急に桜井君がタクシーを止めた。



「どうしたの?」



桜井君はニコニコと窓の外を指差す。



そこには一軒のお花屋さんがあった。


「花でも買っていこか!」



いつも通りの変わらない桜井君の態度が、私の強張った心を少し解きほぐしてくれたようだった。

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