キミのとなり。
しばらく病室でケンチャンと話しをして過ごした。



ふと時計を見ると、11時半を過ぎたところだった。



「じゃー、そろそろ帰るね。」



「えっもう?」



「うん、また佐田さんと会ったらややこしいから。」


いたずらにはにかんでそう言った。



「そっか。……仁、千秋ちゃん帰るってよ!」



ケンチャンは眠ったままの仁にそう言葉を投げ掛けた。


もちろん、仁は何も答えてなどくれない。



「……ったく、愛想のない奴だな。」



そう言ってケンチャンは私に優しく笑いかけた。



ベッドの上の仁に手を振って後ろ髪を引かれる思いで病室を後にした。



「下まで送ってあげたいんだけど、一緒にいるとこ誰かに見られたらまずいから……。」



ケンチャンが申し訳なさそうにそう言って頭を掻く。


「うううん、ここで平気!色々ありがとう、ケンチャン。また明日来る。」



「そっか!うん、わかった!」



そしてそこに立ったまま気まずそうにそっぽを向いているボディーガードの男性の前で私は深く頭を下げた。



「すいませんでしたっ。…それと……、ありがとうございました。」



私の言葉に男性はまた気まずそうに知らん顔している。


「それじゃー」



「気をつけてね。」



私はケンチャンに手を振って病院を後にした。



病院の帰り道、ふとあの公園に寄ってみる事にした。


いつもは賑わう昼間の公園も、冬に入ったせいか人気がなく静まり返っている。


ここにはたくさんの思い出が詰まっている。



仁が雨に打たれてタマを拾った公園―



バンドの事や過去の辛かった話をしてくれた公園―



私がへんな男達に襲われそうになった時に仁が助けてくれたのもこの公園だった。


ブランコに揺られながら目を閉じた――



“キィッ…キィッ…キィッ…”



錆び付いたブランコの音。


木枯らしが吹き抜ける音…


それと一緒にどこからか猫の鳴き声が聞こえた気がした。



タマの声……






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