キミのとなり。
向こうもこっちに気付き、驚いた様子で私を見ている。


「ち…千秋。」


久しぶりに弘人から聞く私の名前。


忘れかけていた胸の痛みがまた襲いかかってきた。


弘人……


その場の空気で、仁は状況を察した様にゆっくり振り返り、私に近寄る。


顔を覗き込んで小さくこう聞いた。


「平気か?」


その声にさえ答える事ができない。


すると、仁は……


“ガシッ”


急に私の肩に手を回した。

えっ……


そしてこう言った。



「行くぞ、千秋。」


初めて聞いた仁が呼ぶ私の名前……


ふと、現実に帰る。


ゆっくり私の肩を抱いて歩き出した仁は、すれ違い座間に弘人に鋭い視線をぶつけた。


ぶるぶる震える肩を仁はいつまでも抱いていてくれた。


「せっかくのダブルデートが……散々だね、ほんと。」


私が無理に笑うと仁はこう言った。


「いつまで俯いて歩くつもりなんだ。」


「…え?」


「そんなんじゃ、よくなるもんもならねぇ。ちゃんと前だけ見ろ!」


あぁ、今の私の気持ちの事を言ってるのか……。


「お前が決めた事なんだろ?だったら貫け。」



「…うん。」


仁の厳しくも優しい言葉に胸が熱くなった。


その通りだね。ちゃんと前、見なきゃね。


仁は肩にかけた手を離した。


「今度の木曜、8時にライブハウスに来い。」


え…?


ライブハウス?


「新曲唄うから。」


あっそうなんだ。



「…うん、行く。」



また元気もらえるかな。



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