キミのとなり。
ギターを弾く仁の手がゆっくりと止まる。


一瞬部屋がシーンとなる。


優雅に曲を奏でる仁の姿に思わず見とれてしまっていた。


“パチパチパチパチ…”


目から溢れそうな涙を必死にこらえて拍手をした。



「まぁこんな感じ…」



「すごいね、いい唄。」



仁は照れ臭そうにギターを横に置いた。


「なんて題名なの?この曲…」


『幸福の扉』


幸福の…扉。


「きっとメジャーデビューも夢じゃないねぇ~。」


本当は仁の唄う歌詞の一つ一つがヒシヒシと私の中に入って来て泣きそうだったけど、
押さえていた気持ちをごまかす為に必死に作り笑いした。


だけど、そんな事仁にはお見通しだったんだ。


「思い出したくない事思い出したか?」


「え!?」


「…そんな顔してる。」


「私は別に……」


「そのはずだよな。」


え?


仁はじっとこっちをみてこう言った。


「この唄のモデルはあんただから。」


え……


私…?


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