赤い狼と黒い兎
『…窓ガラスに当てた…?』
「……貴女って子は…」
智子さんは、バッと素早く立ち上がると急いで手当てに必要な物を持ってきた。
「女の子が体に傷作っちゃダメでしょッ!痕が残ったらどうするの!!」
『や、あの……』
「口答え無し!黙って!」
『……。』
なんだこの人…。
身体中、傷だらけなんだけど…。
今さら痕が残ったからと言って騒ぐ必要もない。
それに、胸辺りには黒狼って証の刺青も入ってるし……。
(…必死だなぁ…)
痕が残らないようにしてくれるのは有り難いが、そんな鬼の形相のような顔でやられたら逆に怖いんだけども…。
「――よし!傷もそう深くないみたいだし、安静にしてればすぐに治るわ」
『…ありがとう、ございます』
綺麗に巻かれた包帯を見ながら小さく呟いた。
智子さんはニッコリと微笑んで言った。
「いいえ♪だけど、もうこんなことしちゃダメよ?わかった?」
肯定も否定もせずに、ただ曖昧に笑って過ごした。
「失礼〜?飯沼ちゃん」
「加奈子」
扉の奥からやって来たのは、加奈子と青夜だった。
「さすが飯沼ちゃん!やる事早くて助かるわ!」
ニコニコと笑ながら智子さんにそう言う加奈子。
「当然でしょ?あんたとは違うの」
「…比べるものが違うよ、あんた」