赤い狼と黒い兎


『…窓ガラスに当てた…?』

「……貴女って子は…」



智子さんは、バッと素早く立ち上がると急いで手当てに必要な物を持ってきた。



「女の子が体に傷作っちゃダメでしょッ!痕が残ったらどうするの!!」

『や、あの……』

「口答え無し!黙って!」

『……。』



なんだこの人…。

身体中、傷だらけなんだけど…。

今さら痕が残ったからと言って騒ぐ必要もない。

それに、胸辺りには黒狼って証の刺青も入ってるし……。



(…必死だなぁ…)



痕が残らないようにしてくれるのは有り難いが、そんな鬼の形相のような顔でやられたら逆に怖いんだけども…。



「――よし!傷もそう深くないみたいだし、安静にしてればすぐに治るわ」

『…ありがとう、ございます』



綺麗に巻かれた包帯を見ながら小さく呟いた。

智子さんはニッコリと微笑んで言った。



「いいえ♪だけど、もうこんなことしちゃダメよ?わかった?」



肯定も否定もせずに、ただ曖昧に笑って過ごした。



「失礼〜?飯沼ちゃん」

「加奈子」



扉の奥からやって来たのは、加奈子と青夜だった。



「さすが飯沼ちゃん!やる事早くて助かるわ!」



ニコニコと笑ながら智子さんにそう言う加奈子。



「当然でしょ?あんたとは違うの」

「…比べるものが違うよ、あんた」



< 100 / 286 >

この作品をシェア

pagetop