赤い狼と黒い兎


「唯兎、ちょっと黙ってようか」

「ハイ……」



何だろう、この威圧感。もしかして朔弥くんが朱雀の総長だったりして……。

…まあ、それはないか。見る限り、情報係だな。



「はい」

『ぁ、ありがと…』



朔弥くんはにこりと笑い「どういたしまして」と言った。

ブラックスマイルじゃないよ。

紳士的な、女が好きそうな笑顔。

…あたしは嫌いだけどね。



『…こんな字』

「難しッ!」

「これで馨って読むのか?すげーな、馨の親」



いきなし呼び捨てかよ。

……まあ、いっか。



「馨ちゃん、ね」

『…そーゆーアンタらは?』



そう言った瞬間に、教室の空気が止まった。

え、何?

知ってるけど、知らないフリするのは止めといた方が良かった??

…っても、実際知らないからいっか。



「俺らんこと、知らねーんだ…」

『…有名人?』

「まぁ、いちお?」

『へぇ、自分で有名人とか思っちゃってるんだ』



口元を吊り上げ、少しだけ笑った。

…一度、それをしたらみんなから「不気味だ」と批判を浴びた。

それくらい、あたしの笑顔は歪んでしまってるらしい。



「は?」

『自分が本当に有名人だと思ってるの?』

「……」



今度は、教室の空気そのものが、凍った。



『アンタらを有名人にしてるのは、何?アンタら自身が有名なんじゃなくて、チームにあるんじゃないの?』

「…てめえ、何が言いてぇんだ」



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