赤い狼と黒い兎


頭の中が真っ白だ。

何であたしが泣いてんの。

この状況で、何で悲しいの。

おかしいでしょ……。



「お前が俺にしたように、俺もお前に返してやるよ……」



嶽は吸っていたタバコを捨て、懐からナイフを取り出した。



「てめっ、何する気だ!!」

「絶望だよ絶望。お前に…いや、ここに居る全員に絶望を味わせてやるよ…!!」



手摺りを飛び越え、綺麗に着地する。

あたしは、涙で目の前が霞んでボヤけてしか見えなかった。

が、呆然と嶽がこっちに向かっている事だけは分かった。



「嶽ッ!」

「てめぇ馨に手ェ出したら分かってンだろうな!!」

「へぇ、どうなるんかねぇ……?」



ニヤリと口の端を吊り上げて笑う嶽。

あたしはただ、怖いとしか思わなかった。

いや、思えなかったの間違い。



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