赤い狼と黒い兎
正南学院
「馨ー!」
朝っぱらから兄貴のでかい声で目が覚め、むくりとベッドから起き上がった。
『………うるせぇ、クソ兄貴…』
目を細め、ドアを睨む。
あたしは低血圧なんだ、朝は弱いんだよ…。
ドタドタと階段を駆け上る音が聞こえ、あたしのドア手前でピタリと音が止む。
そして、数秒してからコンコンとノックが聞こえる。
「馨〜?」
『………何』
「おっ、珍しく起きてるな!」
ベッドに近寄って来たかと思えば、「えらいえらい」と言って頭を撫でる。
『……ガキ扱いすんな』
頭を撫でていた手をパシッと払い除け、兄貴を睨んだ。
あたしの兄貴――有栖川 瑠宇――は誰から見ても、極度のシスコン野郎だ。
「照れちゃって!かわいいなあ、馨〜っ!」
だから、あれくらいじゃあ兄貴はへこたれない。
逆に、引っ付いてくるくらいだ。うざいくらいに。
『照れてねぇ…。…つうか、何か用?朝っぱらからうざいんだけど。』
「おお、そうだった!」
もういい、その下り。わざとらしいから。
兄貴はニコニコニコニコと気色の悪い笑みを浮かべ、あたしを見ている。
「気色の悪いとは失礼な!」
『本音だ。さっさと用件を言え』
「酷い…」と泣き真似を始める兄貴に、だんだんとイライラしてきた。