赤い狼と黒い兎


「……てめぇ…女だからって調子ノってんじゃねーぞ」



低い声で唸るようにして言う向日葵。



『…へぇ、女殴る気?』

「馨、」



向日葵の目には…、いや朱雀(亜稀羅以外)の奴等全員にはあたしはか弱い女の子として見えてるんだろう。

男が何十人束になってあたしの前に来ようとも、あたしには勝てない。

誰1人として、ね…。



「……」

『…大体、そんな顔してケンカ出来るとは思えないけどね』



溜め息混じりにそう言えば、向日葵は驚いたように目を見開く。



「そんな顔…?」

『…悪いけど、あたしは無意味なケンカはしない。する気にもなんないしね』



あたしは向日葵の横を通り抜け、ドアノブに手をかけた。



「…お前に、何がわかんだよ……」



そう、呟くような小さな声があたしに届いた。

あたしは口の端を吊り上げて笑った。



『お前のことをよく知りもしないあたしが知るわけないだろ。…あたしが言いたいのは、表情が分かりやすいってことだよ』



そうとだけ言って屋上を出た。

あたしの後を追うように、春架たちが小走りでやっきた。



「馨ってば、最近ケンカしてないよねぇ?」

「大丈夫なの?」

「前はあーんなにしてたのに」



春架、琉樹、麻友美がそう言ってきた。

深子と磨子は後ろできゃっきゃ騒いでいる。



『お前らじゃあるまいし、別に大丈夫だ』

「ま、家には亜稀羅とか瑠宇さんが居るもんね」

「いざというときのサウンドバック!」



< 23 / 286 >

この作品をシェア

pagetop