赤い狼と黒い兎
「……てめぇ…女だからって調子ノってんじゃねーぞ」
低い声で唸るようにして言う向日葵。
『…へぇ、女殴る気?』
「馨、」
向日葵の目には…、いや朱雀(亜稀羅以外)の奴等全員にはあたしはか弱い女の子として見えてるんだろう。
男が何十人束になってあたしの前に来ようとも、あたしには勝てない。
誰1人として、ね…。
「……」
『…大体、そんな顔してケンカ出来るとは思えないけどね』
溜め息混じりにそう言えば、向日葵は驚いたように目を見開く。
「そんな顔…?」
『…悪いけど、あたしは無意味なケンカはしない。する気にもなんないしね』
あたしは向日葵の横を通り抜け、ドアノブに手をかけた。
「…お前に、何がわかんだよ……」
そう、呟くような小さな声があたしに届いた。
あたしは口の端を吊り上げて笑った。
『お前のことをよく知りもしないあたしが知るわけないだろ。…あたしが言いたいのは、表情が分かりやすいってことだよ』
そうとだけ言って屋上を出た。
あたしの後を追うように、春架たちが小走りでやっきた。
「馨ってば、最近ケンカしてないよねぇ?」
「大丈夫なの?」
「前はあーんなにしてたのに」
春架、琉樹、麻友美がそう言ってきた。
深子と磨子は後ろできゃっきゃ騒いでいる。
『お前らじゃあるまいし、別に大丈夫だ』
「ま、家には亜稀羅とか瑠宇さんが居るもんね」
「いざというときのサウンドバック!」