赤い狼と黒い兎
「ヒッ!」
龍希はそう小さく悲鳴を上げ、向日葵は目を見開き、郁は顔を青くしていた。
…今の朔弥は、まさに般若。
後ろに黒いものが見え隠れしている。
「さっ、朔弥さん…?」
「わっ、バカ龍希!あの朔弥に話し掛けんじゃねーよ…!!」
向日葵が焦ったように龍希の口を塞ぐ。
ゲームをやっていた亜稀羅も一旦ゲームをやめ、朔弥を見ていた。…楽しそうに。
「朔弥?…どうした?何か見付かったか?」
唯兎がそう聞くと、朔弥はメガネのブリッジを上げ小さくだが溜め息をついた。
「…何も出てこない」
「……は?」
「調べても何も出てこないんだ。唯一出てくるとしたら、名前、年齢、性別、誕生日くらい」
朔弥の言葉に、亜稀羅以外は信じられないといった表情をする。
そんな亜稀羅の心情はというと……
(当たり前だ。いくら世界的ハッカーの朔弥でも、馨の情報は調べられないし得られない。moonにだって、朔弥と同じ…いや、朔弥以上のハッカーが幹部にいる。馨だってその1人だ。そう簡単に見付けられるか…)
少しだけ、朔弥を見下していた。
亜稀羅は誰にもバレないよう、ニヤリと笑った。
「ほぉ〜。朔弥にも無理があんのか。…じゃあ朔弥以上の人間が馨の事を隠してんだな」
「!」
唯兎の言葉に、亜稀羅は驚いた。
一瞬、バレたのかとひやりとする。