赤い狼と黒い兎
「おめぇ……」
「!!」
そいつの声を聞いた瞬間、悪寒が走った。
ドスの利いた…地響きがしそうなくらい、低い声。
「うちのシマで暴れんの…何回目だ…あぁ?」
「……ッす、すいません!!」
「それも何回目だ」
「………っ、でも今回のはアイツが…!!」
男が寝転がってる俺に指を指す。
フードを被っている男は、俺をちらりと見るとまた目の前にいる男に目を向けた。
「……それ、おめぇのナイフか?」
「そ、そうですけど……」
そいつは、男の横に落ちていたナイフを拾うと手の中でナイフを転がした。
俺は上半身だけ起こし、それを見た。
「…ヤクザの下っぱのクセに、ナイフだけはいいモン使ってんだなぁ…?」
「……いや、」
「ん?血ぃ付いてんな…」
男は何かを考えるような素振りをして、しゃがんだ。
「おめぇ…見逃して欲しいか?」
「!、そうして貰えるんなら…っ!」
「そうかそうか」
俺はその言葉に目を見開いた。
マジで言ってんのか…こいつ……。
「じゃ、とっとと失せな。…俺の気が変わらねぇうちに…」
そう言うとフードを被った男は立ち上がり、もう1人の男も逃げるようにして走った。
けど…俺は見たんだ。
そいつがニヤって笑って「甘ぇなぁ…」って呟いたのを…。