赤い狼と黒い兎
「…悪いな。」
黒狼はしゃがんでやんわりと俺の手を離した。
…その手が、意外に小さくて驚いた。
「俺らmoonは闇に浮かぶ月。…暗闇に生きる狼たちは、表の明るい場所に出る事は出来ない」
「………。」
すると、黒狼は自分のしていたネックレスを外し俺につけた。
「…これ」
「俺の大事なネックレス。失くしたら殺すぜ?」
「でも…!」
「もっと強くなれ。何かを守る為にケンカをしろ。お前が強くなったら…また俺に会いに来い」
にかっと笑って見せたその笑顔は、さっき見てきた不敵に笑った顔でも、見下したような顔じゃなかった。
――無邪気な、楽しそうな笑顔。
「おっと…救急車が来たか」
そう呟くと、素早く立ち上がり殺した男の側に行った。
細身の体で、でかい男を持ち上げる。
「あっ、おい…!」
「じゃあな、桜庭郁さん。また会う日を楽しみにしてるぜ」
黒狼は片手を上げて、暗闇に消えて行った。
「また会う日…か…」
「君!大丈夫か!?」
救急車が来た安心感からか、俺はそこで気を失った。
その日から俺は
何かを守る為に
強くなろうと決めた―――