赤い狼と黒い兎
『ばーか。郁が想像するような危ない事はしてないよ』
「へっ……?」
素っ頓狂な返事と顔をする郁に、クスクスと笑った。
『ヤクザの人間は殺した後、その組に連れて行くのがあたしらの決まり』
「…っつーことは、連れてったて事?」
『そ。それでその組の奴等はそいつを引き取った』
「ひ…引き取った…?死体を…?」
『そりゃあね。どこの組も引き取るよ。一応仲間でもあり家族だから』
「家族…」
『うん。全部の組がそうってわけでもないけど。家なき子が多いからね。ちっさい頃から面倒見てるっつー組もあるし』
郁が小さく相槌を打つと、自然と沈黙になる。
あたしは欠伸を溢して、窓の外を見た。
『…家族でもね』
「え?」
沈黙を破ったあたしを、郁は不思議そうな顔をして見た。
『家族でも、すぐに火葬してしまう人もいる』
「………。」
『…あたしは、何十人とヤクザを殺して来たよ』
「!」
右手を空に翳し、目を細めた。
『もうこの手は真っ赤だ。郁が見たのはごく一部に過ぎない。…あたしは、あの後仲間と…仲間だった奴と3人殺した』
「!?」
『その日は合計4人だ。…言っただろ?moonはサツの犬だって』
サツの犬に成り下がった、哀れな狼……。