優しい囁き
「着いたよ、ここ。」

「えっ…ここって…」

「僕が住んでるマンション。」

そう、車はまぁまぁ大きいマンションの駐車場に入った。

まさか家に連れていかれるとは思っていなかった。

せいぜいそこらへんのホテルだと思ってたから。

男っていうものは自分のテリトリーに女を踏み込ませたくないらしくて。

今まで男の家に入ったことなんてない。
まぁ学生だからっていうのもあるけど。

「8階だからエレベーターね。」

エレベーターに乗り、さらに不安になる。

初めて本物の男に出会った気がする。

すべてを包んでくれそうな、そんな感じ。

好きにならないのは簡単なんて思ってたけど、怖い。

ケンとは違うかっこよさに戸惑う。



そうこうするうちに北原の部屋に着いてしまった。

北原がドアを開けて、中へ入るよう促す。

迷ったが、今さらひき返せない。
もう覚悟を決めるしかない。

大丈夫。
あたしはケンを忘れるためにこの人の温もりを求めてるだけ。

だから、大丈夫。

「どうかしたの?」

「いえ、大丈夫です。お邪魔します。」

そして、扉は静かに閉められた。
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