優しい囁き
木曜の放課後。

化学準備室をノックするあたしがいた。

「どうぞ。」

低すぎない甘い声。授業の時にいつもかっこいい声だなって思ってた。

だから朝、声を聞いてすぐわかったの。
あの声だって。

扉を開いて入ると、眼鏡をかけた北原が足を組んで座っていた。

「何?」

「朝、問題集をドアの前に置いていったんですけど、見てくれました?」

「あー、あれ君だったんだ。わざわざ持ってきたんだから中に入ってくればよかったのに。」

「お邪魔しちゃいけないと思って。お楽しみ中っぽかったから。」

北原はちょっと考えて、あぁって感じであたしに顔を向けた。

「外まで聞こえてるんだ。今度から気をつけないとな。ありがとう。」

否定しないんだ。
ますます興味がわいてくる。

この人はどんな風にキスしたり、抱いたりするんだろう。

「まだなんか用?」

やばい。この人としてみたい。

「…ねぇ、せんせ?あたし、先生としてみたい。」

北原は一瞬目を見開いただけで、すぐに目が細まり口角があがる。

「へぇー…意外だね。君は普通に恋愛している生徒だと思ってたよ。」

「あたしは普通に恋愛している生徒ですよ。相手は彼女持ちですけど。」

「なるほどね。…忘れたいんだ、その彼のこと。」

「さすが経験豊富な北原先生ですね。話が早い。」

北原が眼鏡を外す。
いつもよりかっこよく見えるのはなぜだろうか。

「してもいいけど、一つ誓ってくれ。」

「なんですか?」

「忘れさせるのはいいけど、僕を好きになるのはやめてくれ。誓えるか?」

なんだか真面目なのか不真面目なのかよくわかんない。

まぁそんな誓い簡単。

「もちろん。逆に、あたしに惚れないでね、せんせ。」

それを聞いた北原は急にははっと小さく笑いだした。

「君、生意気すぎ。」

そう言うと同時に引き寄せられ、唇を塞がれていた
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