優しい囁き
秋の空はどこか悲しい。
駐車場で北原を待っていると、ひらひらと枯れ葉が舞ってきた。

あたしもこの枯れ葉みたいになるんだろうか。

木から見放されて、独りで落ちていくこの枯れ葉みたいに。



「あっ、ケン?ごめんね、今日日直なの忘れてて。今から行くね。……うん、いつものとこで。じゃぁあとで。」


目の前をあのふわふわした彼女が携帯を片手に通りすぎていく。

彼女はあたしのことを知らない、当然だけど。

わかってるけど、引き留めたくて仕方がない。

引き留めて、「あなたの彼氏、あたしと浮気してるよ。」って言いたくて仕方がない。

彼女はどんな顔をするんだろう。

あたしがじーっと見つめていると、彼女、メイちゃんがこちらに顔を向けた。

小さく首を傾げて、にこっと笑う彼女。

知らない人とわかったからか、そのまま通りすぎていった。






「お待たせ……って、どうかしたの?」

北原が来て、あたしの顔を覗いて驚いてる。

「…まぁとりあえず車乗る?」

北原の車の助手席に座り、エンジン音を聞く。

「で、なんで泣いてるの?」

その言葉に余計に涙が溢れてくる。

北原はハンドブレーキを下ろして、ゆるやかにハンドルをきる。

「…もっと、楽しい恋愛しなよ。」

そう言って、ショパンのノクターンを流し始めた北原。

それからは何も話さなかった。

あたしのすすり泣く声も、ショパンの綺麗な旋律に消されていった。
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