水に映る月
 

数分程で、慧は戻って来た。

あたしはケータイを閉じ、涙を拭いた。


「純ちゃん、オレンジすきやろ?」


冷たいペットボトルが右手に触れて、あたしは顔を上げ、彼を見た。


慧は缶コーヒーを一口飲み、窓を開けて、取り出したタバコに火をつけた。


喫煙している彼を、初めて見た。


「ケイちゃん、タバコ吸うの?」


あたしは、ビックリして訊いた。


「今だけな‥。長いこと禁煙してたけど、ちょっとな‥。」


彼は白い煙を吐き出して、静かな声で答えた。

そして


「先輩に頼まれたんや。」


って、言った。


 
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