水に映る月
数分後、看護師に付き添われたママは、面会室に現れた。
「何かありましたら、そこの呼び出しブザーを押して下さいね。」
あたしが頷くと、看護師はドアを閉め、外から鍵を掛けた。
虚ろな表情をしたママの目は、焦点が合っていない。
あたしを見ても、何も反応しなかった。
立ったまま、壁に向かってブツブツと話し続けるママ。
その姿に憐れみを覚えた。
あたしは、ママの背中に向かって
「あたし、恋、した。」
って、言った。
そして、その一言を発した途端、溢れ出した感情が抑えられなくなった。
今のママにとっては、あたしも壁と同じ。
なんの存在感もない。
分かっていたけど、あたしは、慧への想いを語り続けた。