水に映る月
もし、シンと出会うよりも早く、あたしが慧に出会っていれば‥
もっと、違う未来が待っていたかもしれないのに‥
やり切れない感情は、行き先なく胸の中で滞っていた。
「純ちゃん、スネて男の家に行ったことあるやろ?酒飲んで酔っ払って‥。」
「‥うん。」
「あん時、ぶちキレそうになったな。もし、ソイツになんかされてたら‥って‥。」
あの夜、慧は初めて「純」って、呼び捨てにした。
あたしは、その時に感じたキモチを思い出していた。
「一分でも、一秒でも長く、純ちゃんといたいと思うようになって‥。」
だから、あたしを仕事場にも連れて行った。
「でも、人を自殺にまで追い込んだオレに、そんなこと許されるワケが無いのにな‥。」
見えない境界線を作ることで、慧は、あたしへの想いを自制し続けた。