遠吠えクラブ
「ちゃんと調べたほうがいいわよ、前の二人の奥さんのこと」

 確かに聡の前の二人の奥さんは気の毒な死に方をしてるし、それについて面白おかしく噂する人がいるのを、美夏も知っていた。そりゃいくらかの保険金は入ったらしいけど、でも今の世の中、結婚して生命保険に入らないほうがヘンだろう、と美夏は思う。

 第一、何億もかけてたわけじゃない。ほんの一千万か二千万と聞いている。それくらいで、奥さんを殺す人なんているかしら。

「いくらだっているわよ。もっとはした金で殺す人だっているし」
とウーロン茶をごくりと飲みながら羽純は言ったっけ(酒飲みの美夏と千紘からすると、ウーロン茶1杯で大量のフルコースを食べられる羽純が信じられない)。

「あたしがあの夜、元ダンナに殺されかけたのはね、あの人の大事にしてた5千円くらいの灰皿を掃除中に割ったからだったわ」

 それを聞いて二人は黙り込んだ。

 やがて千紘がぽつりと言った(太り始めてから黒っぽい服しか着なくなったため、いつも同じファッションに見える。本人は「編集長は、いつお通夜があってもすぐ駆けつけられるようにこういう服が一番便利なの」と言っていたが)。
「一人目が一年足らず、次が半年ちょっとだっけ?」
羽純がうなずいて続ける。
「一人目が、泥酔してお風呂に入ったまま眠って溺死して、二人目が犬の散歩中に車にはねられたんだったよね」
「じゃあ私は、酔っ払って風呂に入らないようにするし、犬の散歩も聡さんにまかせるわよ」
美夏はわざと軽く笑い飛ばしたものだ。

 二人とも、聡を知らないからそんな妄想を抱くのだ。あんなに穏やかでやさしい人がそんなことできるものか。それに(家電製品のこと以外は)びっくりするくらい面倒臭がりやなんだから。
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