遠吠えクラブ
 千紘が初めて美夏の料理を食べたのは、学生時代に美夏がスパイスの調合に凝りまくっていた頃だった。

 こだわり過ぎて、一口食べて誰もが無言になるような珍妙なカレーができてしまったが、
「喉を、知らない国の草原の風が通り抜けていくみたいな味がする。こんな爽やかなカレー、初めて」
と感動して、何杯もおかわりをした。

 その瞬間から、美夏と千紘は親友となった。

 また自分では料理がとことん下手な羽純は、意外にも美夏の料理の一番手厳しい、そして最も鋭い批評家だった。だからこそ、美夏はどんな時も羽純に一目置いてきたのだ。

 なのに、自分が一番愛したはずの夫に、どんなに心をこめて料理を作っても、そこには何も生まれないのだ。何か反応を期待するだけで、なぜか聡はどんどん心を閉ざしていく。
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