遠吠えクラブ
 でもさすがの羽純も、二人目の奥さんが亡くなった後も結婚しようと言ってくれず、かといって別れようともしない聡の優柔不断さに、ほとほと疲れてしまった。

 そんな自分の疲れに気がついたのは、ある若い男子社員の言葉がきっかけだった。

「どうして結婚しなかったんですか?」

 悪気のない、無邪気な問いかけかもしれなかった。
 当時の羽純は三十二歳、新卒で入社した彼は十歳年下だったし。

 でもその言葉を聞いた時、自分が五十歳にもなったような気がした。

 そしてその気持ちは、顔にべったりと塗られた墨のように、いつまでも消えなかったのだ。
 苦しくてたまらなかった。
 その苦しみから逃れられるなら、何でもよかった。
 そう思ったのだ、その時は。
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