遠吠えクラブ
 人生で初めて知った、行き場のない苦しさ、不安。
 それを忘れさせてくれる相手なら、誰でもよかった。
 楽しい相手、愛せる相手など望んでいなかった。
 どうせ聡と結婚できないのだったら、もう自分の飢えを満たしてくれる男なんてどこにもいないとわかっていたから。

 英毅が自分のことを思ってくれていることは、前から気がついていた。
 ほかの男のように物欲しげに図々しく近づいてこないところがいいと思った。

 そういえば表情が少しだけ、聡に似ていた。
 笑うと困ったような表情になる、少したれた目のあたりが。

 それだけでいいと思った。
 
 お料理も何もできないことは、最初に言っておいた。それでも、心からは夫を愛せない引け目の分、せめていい奥さんになろうと思って努力した。お料理も彼女なりに精一杯、がんばったのだ。
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