遠吠えクラブ

「雑誌の編集ってほんとに仕事の8割くらいが雑用なのよ。膨大な打合せと細かくて大量の下準備とチェックと手直し、その繰り返し。
でもその手順をすべて踏んで初めて、自分が作りたいと思う頁が誕生するわけ。

 それが見たい一心で寝ないでふらふらになりながらやってるのに、昼過ぎに来て6時前に帰っちゃうおばちゃん編集者の上司が最後のチェックでちらっと見て、

首をこう、5度くらいうっすらと傾けて、マックス気取った顔で黙って校正紙を突き返してくるわけ。

あんまり微妙な動きなんで、新人なんてまず見逃すわね。
「え、動きましたっけ? いつ?」
ってなもんよ」

 千紘は息継ぎをするようにグラスのワインを飲み干してため息をついた。
「でも別の雑誌が立ち上がることになって、彼女がそっちに行くことになったんで、やっとやっと私がチーフになれたわけ」
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