遠吠えクラブ
【第6章】 美夏のキッチン
「聡さんの最初の奥さんが亡くなったのが、この前の夜なのよ。私、毎日お仏壇にお水供えているから知ってるの」
千紘はワイングラスを置いて紙を手にとり、まじまじと文字を見つめてつぶやいた。
「…これ、女の字だよね」
「でしょ? だからたぶん、奥さんの字だと思って」
「どこにあったの?」
「食器棚の裏のところに引っかかってたのよ。バーニャ・カウダ用のキャンドルを裏に落っことして、拾おうとして見つけたの」
「なんて書いてあるんだろ? 意味わかんないわ」
ダイニングルームで羽純と聡の話す声が聞こえるのを確かめて、美夏は千紘の耳に唇を寄せて伝えた。
自分の頭に浮かんだ、あのストーリーを。
二人の妻の死の真相を。
千紘が息をのむのがわかった。