遠吠えクラブ
 美夏が姿を消すと、羽純は遊を固く抱きしめてリビングに戻った。

 千紘は無言で、棘に触らないように包装紙を広げてそっと薔薇をシンクに移した。
 聡もまた無言で、散らばった葉を拾い集めた。

 その時ふと聡が、手を止めて何かを拾い上げた。

「これ、千紘さんの?」

 それは、美夏が見つけたあの紙片だった。
 千紘に渡しかけ、ふとその紙片を見つめていた聡が、はっとしたように顔を上げた。
 千紘は決意した。
「聡さん、それ、美夏が見つけたんだって。最初の奥さんの字だよね?」
「ああ、だけどよくこんなのが…」
「それって、亡くなった日の翌日の日付だよね? その日の予定だったんでしょ?」
 だから? 
 だから? 
 激しく混乱した表情で聡は千紘の言葉を待った。

「あのお風呂場での事故の翌日、本当は奥さん、お宅で飼っている犬を、知り合いの家に預けに行く予定だったんじゃない?」
 
 聡の頭の中で、あの夜のことが甦ってきた。
 封印しようとしていたあの思い出。
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