天空のエトランゼ〜刃の向き
「キャロル…さん?」

僕は、その笑みに妙な違和感を感じ、眉を寄せた。

「すまないな」

そんな僕に、キャロルは何故か謝ると、再び歩き出した。

「赤星くん…。ついて来てくれ」

「キャロルさん?どこにいくんですか?」

首を傾げながらも、僕は彼女の後を追った。

かつては、アルテミアにシンパシーを感じていたという彼女の言葉と…相反する憎しみに、僕は少し気になってしまっていたのだ。

「なあ…赤星くん」

しばらく無言で歩いてから、キャロルは口を開いた。

「天空の女神と言われる…あの女がもう1つ、なんて呼ばれているか。知っているか?」

「え、ええ…まあ…」

僕は、頷いた。

「ブロンドの悪魔」

キャロルは吐き出すかのように、その言葉を口にすると、前方を睨んだ。

「その呼び名こそ!あの女にこそ、相応しい!女神ではなくてな」

そう言うと、キャロルは足を止めた。

いつのまにか、僕らは町の外れに来ていた。

「え!」

僕は、移動の速さに驚いた。

「あの悪魔は…あたいの愛する人を傷付けた!」

そして、キャロルは再び歩き出すと、目の前に現れた…誰もいない廃工場の中に入っていった。

「キャロルさん?」

僕も、廃工場の中に入った。

誰もいない工場。恐らく、繊維工場だ。

カードシステムの発達により、召喚技術の向上は、町から工場をなくしたはずだった。

「それが、あたいは許せない」

キャロルは工場の真ん中で足を止めると、近付いてくる僕に向けて、振り返り様、横凪ぎの斬撃を放った。

その軌道は、僕の鼻先をかすめた。

「え」

少し切れた鼻。戸惑う僕に、キャロルは叫んだ。

「アルテミアに変われ!」

「え?」

まだ理解できず、首を捻った僕は、鼻先を確認した指に血がついていることに目を見張った。そんな僕の頭上…工場の天井に蠢く無数の影が蠢いていた。

「赤星!変われ!」

アルテミアの声が、耳についたピアスから響いた。

その声に、指先についた血を見つめながら、僕は反射的に叫んだ。

「モード・チェンジ!」

僕の左手…薬指につけた指輪から光が溢れた。

そして…。

「ビーナス!光臨」

アルテミアが、廃工場に姿を見せた。

「天空の女神!」

再び振るわれたキャロルの剣を、半歩下がるだけで避けたアルテミアの周りに、天井から下りてきた魔物達が囲む。
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