捨て犬な彼 ─甘えんぼクンと俺様クン─

あたしはバスルームのドアとお母さんの間に滑り込んだ。


「だめだめ!絶対だめ!!」


「あら、なんでー?」


お母さんが不思議そうに首を傾げる。


曇りガラスから奥を覗こうと、背伸びをしている。


すかさず視線を遮った。



「ハルね、人間不審、ってやつみたいなんだよねー、知らない人に噛みついちゃうの」


今のいい!!

絶対いい、今の!


心の中で自分を誉めるあたしと、しきりに首を傾げるお母さん。


そんな時…



「ハックシッッ!」


……………嘘でしょ…


あたしはドアの方を振り返った。


「………」


もう……何も言えねぇ…


お母さんがドアノブに手をかける。


「………」


ガチャッ


ドアの向こうには、散らかった脱衣室に、鼻を啜るハル。


勿論、捨て犬のハルなんかいなくて、そこにいるのはどう見ても人間。


「………」

「………」


「……わ、わん…」


静かすぎる部屋内に、ハルの悲しい鳴き声が響く。


今すぐ走って逃げ出したい気分だった。



「蘭…」

「はい…」


「今すぐ…今すぐ、もと居た場所に戻してきなさい!!!!」
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