捨て犬な彼 ─甘えんぼクンと俺様クン─
でも……
振り向いたハルは、今にも泣いちゃいそうなくらい寂しい顔をしてた。
びっくりしたあたしは、月の光に照らされたハルを見つめたまま動けない。
先にハルが口を開いた。
「蘭…」
ハルの声が、昨日の夜の低い声と同じで、あたしの肩がびくっと震えた。
「な…なに…?なんかしたら、しょ、承知しな「…めん」
何か呟いたハルに、あたしは向き直った。
「え?」
「ごめん…ごめんな…」
ハルが項垂れる。
拍子ぬけしちゃう言葉と、こっちまで悲しくなるくらいの表情。
あたしはハルの隣に腰かけた。
「…蘭っ」
あたしをギュウッと抱き締めたハル。
でも、全然怖くなかった。
「ハル?」
あたしはハルの頭を撫でる。
しばらくしてから、ハルが顔を上げた。
「恐かっただろ?…俺、蘭が泣いてんのみて、なんて事したんだろうって…」
昨日のハルからは考えられない。
さっきあたしがバレないように歩いてたのも、本当は気付いてたのかな?
そう思うと胸が傷んだ。
「俺が恐い…?」
捨てられた子犬みたいな目を見て、クスッと笑ったあたしは、首を振って答えた。
「全然。ペットの事、恐がる必要なんてないもん」