ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~

 マナが部屋にいても、老人は眠っていることのほうが多くなった。
 起きていても呼吸が荒く苦しそうに見える。
 量が増える薬は、老人の体力を奪わないように深い眠りを与えてしまうのだ。
「おじいちゃん、いつになったらよくなるの? あたし、何かできない? どうしたら苦しいのがなくなるの?」
 珍しく起きていても楽そうに見える老人に、マナは問うた。
「ありがとう、マナ。でも、これはもう治らないんだよ」
「どうして? 病気なんでしょ? だったら原因がわかれば治せるはずだわ」
「マナ、これは病気ではないんだ。寿命なんだよ。年をとりすぎて、命がつきるんだ。死ぬんだよ、もうすぐね」
 穏やかな口調にそぐわない内容だった。
 マナはじっと老人を見つめていた。
 老人は横になったまま顔だけをマナに向けていた。

「――死ぬって、どういうこと…?」

 聞きたくないように、小さな声だった。
 わかっているのに、何だかそれはまだマナにとって理解できるものではなかった。

 生命活動が停止すること――それが死。

 知識としてはわかる。
 だが、それが自分にとってどのような作用を及ぼすのか、見当もつかなかった。
「もう二度とこの目を開けないということだよ。もう二度とユウやおまえさんとこんなふうには話せないということだよ。
 死とは、永遠の解放でありながら、時には残酷だ。愛しいものとの永遠の別れも、確かにそこには在るのだから」
「いや……」
 マナは首を振った。
「マナ」
「いや、そんなのいや」
 マナは老人の死という言葉をにわかに理解した。
 もう会えなくなるのだ。
 もう、話せない。
 この瞳が、マナがあんなに憧れた美しい思い出を遠い眼差しで見ることがなくなるのだ。
 それは想像でも耐えられないことだ。
「おじいちゃん、いやよ。どこにも行かないで」
 涙が、マナの頬をとめどなく流れる。
「マナ、哀しんではいけない。残される者の哀しみが強いと、死んだ者は心安らかにはなれない。いつまでもそこにとどまり、安らぎの場所に向かえなくなるんだよ――」
「そんなのわからない。あたしたちをおいていくの? ここにあたしとユウを残して逝ってしまうんでしょ? そんなのいやだもの」
 溢れる思いを止めることはできなかった。


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