阿佐ヶ谷パレット
「ねぇ、じゃあ今は何色だと思う?」
ふふんっと、嬉しそうに葵は私を背中から優しく包む。声はいつになく弾んでいた。
「そうだなぁ、私のお気に入りのマニキュアの色。夕日みたいなオレンジの中に、キラキラした星が入ってるやつ。そんな感じの色」
 仕事上、マニキュアをする訳にはいかないが、ドレッサーの上には何本ものマニキュアの小さな瓶が並べてある。マッドな色からラメが入ったパステルカラー。集めるのが趣味になっていた。綺麗な発色の良いものが好きだった。
「そのマニキュア、綾女ちゃんが塗ったところ見たいな。きっと細い指に映えるよ」
 いつ買ったかは覚えていないが、持ち手の部分に星の形が細工してある、可愛らしい小瓶だったと思う。
「ありがとう。また今度ね」
 そう答えるのと同時に、電気を消して、そのまま葵の腕の中に滑り込む。
葵は骨々しくも意外としっかりとした肩幅で、私の事を抱き枕のように抱えながら眠る。そして腕にすっぽりと収まる私の身体に、葵はお腹をぴったりと当てる。そこからじんわりと暖かさが伝わってくる。お互いが眠りに就く瞬間、私にとって一番安心出来る時間だった。
「おやすみ」
温かい彼の命の音を聞きながら、また夜に沈んでいく。

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