阿佐ヶ谷パレット
八月に入って、久しぶりに一日ゆっくりと休みを取ることが出来た。ペットショップとは忙しいもので、今年のように猛暑が続いていると、動物達のストレスをためないよう、生体管理におわれていた。しかも世間が夏休みという事もあってか、バイトの子は実家に帰るし、店長は新しい店舗に付きっきりと、何かと大変だった。
私は軽く溜息を付き、窓から外を眺めた。膝が少し重くなってきた。
空がオレンジ色に変わろうと準備をしているのが見える。うつろうつろしながら、何となく、一年前の事を考える。
今、膝の上で気持ち良く寝ている葵が、初めてうちに来た日のこと。
あの日から葵は私の隣に、勝手に居付いた。それからもう一年が経とうとしている。
夜の風が淑やか日で、少しだけ雨の匂いがしていた。そんな日に、葵は私の部屋にやって来た。
やって来たというよりも、仕事から帰宅すると「おかえり」と言って、鼻歌を口ずさみながら膝を抱えて小さく座っていた。
まるで葵に迎え入れられたように、自然で、あまり驚きはしなかった。「あぁ、なんか来たんだ」そんなことしか思わなかった。追い出すという考えもなく、一昨年に借りた阿佐ヶ谷のアパートの風に、もうすでに彼は溶け込んでいたように見えた。
何度思い返しても、なぜ私はいきなり部屋にいる、かりにも男の事を警戒しなかったのだろう。その日しっかり部屋の鍵は閉めていたし、「おかえり」と迎え入れてくれた男の事なんて、知らなかった。昔から知っていたような気もしたけれど、何も知らない相手には変わりなかった。
それでも、葵は突然私の目の前に現れた。
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