桐谷くんの心をハイジャックしてきます。
桐谷くんはお弁当をご所望?
「……この体勢、なに?」
『何だろうな』
そう言って。目の前の男はニヒルな笑みを浮かべてみせる。
わー、あたしヤバいんじゃないかな?
なんて、少し冷静な頭で考えてみる。
コンクリートの冷たさが背中から伝わってきて、ぶるりと体を震わす。
どうしよう、なんて。
この状況でいい案がそう簡単に思い浮かぶはずもなくて。
―――こんな事になった原因、それは遡ること2時間前。
「♪~♪~♪~♪」
コンポから流れるMAY'Sの曲に、ぴったりと重なる自分の声。
いよいよサビに入る!って時に、
♪~♪~♪
同じようにケータイからMAY'Sの曲が流れてくる。
………タイミング悪すぎ。
出端を挫かれたような気分になり、こんな時間に電話してくるくらいだからロクな奴じゃないと。
自分の中で頷き、あえての無視。
すると暫くして諦めたように音は止まり、変に二重になっていたのが元に戻る。
「♪~♪~♪~♪」
再び歌に戻ったあたし。
けど、また。
サビに入る直前にタイミングを見計らったように鳴る、忌々しいケータイ。