恋愛グロッキー
そんな物騒な私の心を知らず、茂木さんは続ける。


「…正直、あり得ない奇跡だった。光栄極まりなかった…。その礼をメールでその会社に送ろうとしたら…お前が…言ったんだ。『行ってこい』と」


茂木さんは少し忌々しそうに、なのにどこか心地よさそうに笑った。


「生意気な奴だと…思った。実際。お前は…こう言った。『感謝はメールで届けられるけれど笑顔は届けられないでしょう』と」


言った、かな。

言った気がする。

うん。
言った。

ぞっとした。

……うわあ。

私、先輩に向かってなんて事を。

冷や汗が出てきた私に気づかず、茂木さんは続けた。


「腹が立った。いじめぬいてやろうと思ったよ。…でも、足を運んだ。そうしたら…」


外道なことを言ってのけてから、一呼吸おいて茂木さんは言った。


「『いい取引だった』と言ってもらえた。『君の笑顔が見れて嬉しい』と」


茂木さんの視線がまた、私を捉えた。


「…それからだ」


その強さに。

その熱に。

息が
止まる。


「俺より年下なのに」


そっとその右手が伸びて


「俺より仕事ができないのに」


私の頬に

ふれる。


「ドジだし、ミス多いし、やたら食うし、やたら飲むし、女らしくないのに」


ずたぼろにけなすその台詞が、なぜなんだろう。

ひどく
甘い。


まるで、かわいいと、いとしいと、言われているようで

心臓がばくばくしてる。

壊れそう。

なにこれ。

私どうしたの。


「どうやったって、目が追う…」


囁くようにそう言われ、思考がまとまらない。
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