彼はスター
そういう私も一応芸能人。
事務所に所属している、歌手。
売れない歌手。
そこそこ売れてる。
細々と生活している。
彼とは大違い。
彼も歌手。
歌えばみんなが喜んで有り難がる。
彼の声に魔法にかけられたみたいに。
幸せそうな顔になる。
歌手冥利に尽きる。
そんな彼がある日の私のライブにやってきた。
小さな小さなライブハウスに。
帽子にサングラスをかけていて、一番後ろの壁に寄りかかったまま私の歌を聞いてくれていた。
ステージから見るとすぐにわかった。
1人だけ輝いている。スターだから仕方ない。
ライブが終わると楽屋に来てくれた。
初対面だった。
テレビで見るスターが目の前にいるから緊張した。
「はじめまして。ディストライドっていうバンドやってる翔です。ライブすごく良かったです。」
サングラスも帽子も取って彼は挨拶にきた。
彼が来たら小さな楽屋は一瞬で華やかな空気に包まれた。
「ありがとう。」
彼に押されて、そういうのがやっとだった。