彼はスター
翔君は、仕事に戻ると言って電話を切った。


チーフマネージャーは私をみている。

「心配して電話くれる仲なのね。」

と意味ありげに言って会議室を出て行ってしまった。


あたしは今年入った新人のトキちゃんと2人っきりになった。

トキちゃんは不安そうに私をみている。

「すみません。スケジュールの確認いいですか?」


トキちゃんのおどおどした声を聞きながら、自分の記事を読んだ。

《大人気バンド ディストライドのVo翔が一般女性と堂々デート》


「美緒さん、聞いてますか?翔さんが気になりますか?」



トキちゃんの静かな問いかけに狼狽えてしまった。





「好きなんですか?」

トキちゃんはどんどん聞いてくる。

「トキちゃん、好きじゃない。特別な感情はないよ。」


トキちゃんは目をうるうるさせてまっすぐ見つめてくる。わたしもトキちゃんから目が離せない。

10秒くらい見つめ合って、トキちゃんは納得してまた仕事の話に戻った。


新人のトキちゃんは、栃木から出てきて1人で頑張っている。

とにかく真面目。言われたことはしっかりやる。
いつも黒いリクルートスーツに身を包み、髪は後ろで1つに束ねてある。


一生懸命なのが好感が持てる。



私はトキちゃんをぼーっと見ていた。

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