彼はスター

将大のあけた穴は意外に大きくて。
感情も入り乱れて、可笑しくないのに笑ったり悲しくないのに泣いたり。

ぼーっとする事も多くて。

レコーディングは延期になったらしい。


トキちゃんはそんな私を気づかって、普段より仕事をさせてくれた。

将大なんてつき合ってる時も殆ど会ってなかったし、別れたからって寂しい思いもしない。
ってフラレタ当初は考えてたけど。

そんなことなくて。 
そんなことなかったみたい。
そんな自分に一番驚いているのも自分なの。

いなくなって初めて気づいた。

大切なのに大切にしてなかった。


トキちゃんが厳しく接してくれて、仕事の事ばかり考えさせてくれる。
その時は将大のこと忘れられる。




「トキちゃん、ありがとう。」


テレビ神奈川に出演するための移動中のタクシーでボソッと呟いた。

「仕事しましょう。今は仕事するしかないです。」

トキちゃんは言った。

トキちゃんはみんなわかっている。新人のクセに、全部わかっている。
何でわかるんだろう。
気付くとあたしは泣いていた。でも涙を拭く気にもならない。


前は仕事が大好きだった。新しい現場行くのもワクワクしてたけど、今はそういう気持ちにならない。
人に会うの面倒くさい。


でもどんどん人に会わなくてはいけない。

翔君は変わらず3日に1度のペースでメールをくれていた。

でも返信する気になれなくてずっと無視していた。


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